イッツ ァ スモールワールド

「富士ニュース」令和6 年3月掲載

Meiso Jouki

 年甲斐もないと笑われそうですが、東京ディズニーランドにあるアトラクションのひとつ「イッツ・ア・スモールワールド」が大好きです。
 世界中の子どもたちを模した人形がそれぞれの民族衣装で歌う中を、ボートに乗ってゆっくり進みます。世界一周の幸福な船旅です。
 先月、この「イッツ・ア・スモールワールド」の大人版(・)ともいうべき国立民族学博物館(大阪)を訪れました。昔から民族学や文化人類学に興味があったので、世界最大級といわれる展示には目を奪われっぱなしでした。実際の「物」を通して世界の人々の暮らしと文化に触れることができる施設なのです。
「ゆっくり観たら一週間でも足りないかもしれません。テーマか地域をを絞った方がいいですよ」と親切なアドバイスを受けたので、今回は「宗教」に絞って回りました。

 館内は世界各地のさまざまな信仰の産物である神像・仮面・祭壇・トーテムポール・ユニークな墓誌・宗教音楽(楽器)・お供物…などが、地域ごとに展示されています。
 オセアニアの仮面の数々には底知れぬ畏怖を感じました。人の遠く及ばない偉大なる何ものか(サムシンググレート)を形に刻み敬い畏れた証です。それが造形的にも美しいのですから見応えがあります。
 ちょっとおもしろかったのはシク教(インド)の聖典です。屋根付きの室内ベッドに横たわりシルクの布(掛け布団?)が掛けられていました。「朝の儀式」と「夜の儀式」があるといいます。指導者亡き後、信者さんは「在(い)ますが如く」に聖典のお世話をしているのだそうです。「おはようございます、おやすみなさい」ということでしょうか。
 展示の中でも圧倒的な存在感で迫ってきたのは、ムスリム(イスラム教)最大の聖地メッカのカーバ神殿に一年間掛けられていたという垂れ幕「キスワ」でした。黒く大きな絹幕に金糸銀糸で『コーラン』の聖句がアラビア文字でみごとに刺繍されている実物です。どれだけの巡礼者の祈りが染み込んでいるのだろうと、思わず手を合わせてしまいました。
 キリスト教では、アレンジを凝らしたさまざまな十字架や聖母像、聖書が目に止まり、キリスト教の広がりを感じさせてくれましたし、ユダヤ教の聖典「トーラー」の巻物も展示されていました。

 今、イスラエルではこの三つの世界宗教「ユダヤ教・キリスト教・イスラム教(ムスリム)」共通の聖地エルサレム周辺で激しい争いが続き、終息の糸口はまだ見つかりません。遠く離れた日本で、この三つの宗教の礼拝対象が、同じフロアに仲良く並んでいるのは不思議な気がしましたが、いわゆる多神教の国・日本だからこその企画かもしれません。
 数年前、京都でユニークな駅伝大会があったと聞きました。異なる宗教者(例/仏教・神道・キリスト教・イスラム教等)で四人一チームをつくり、世界平和を願うタスキをつなぎながらゴールを目指す駅伝です。これとて日本だからこそ開催できたイベントなのかもしれません。
 冒頭に書いた「イッツ・ア・スモールワールド」の船旅の間ずっと流れているのがテーマソング『小さな世界』です。「♪…世界中だれだって ほほえめば仲良しさ みんな輪になり 手をつなごう 小さな世界 世界はせまい 世界はおなじ 世界はまるい ただひとつ」(世界の子どもたちがみんなこんなふうに、安心して、にこやかに楽しげに、暮らせたら良いのに)と、いつも同じ思いになります。
 子どもたちのために、「紛争のない世界を」と、ただ、強く祈るばかりです。

 

文・絵 長島宗深

明窓浄机

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